開催概要

国際木版画会議の経緯について

2020年11月、奈良において、第4回国際木版画会議が開催される予定です。

三年に一度実施される、国際木版画会議の開催経緯を簡単にご紹介します。

1997年兵庫県淡路島・長沢地区において津名町(現・淡路市)の協力のもと、日本で発達した水性木版画の海外普及を目指す、アーティスト・イン・レジデンス 長沢アートパーク事業(NAP)の取組が始まりました。この事業は文化庁・文化のあるまちづくり事業として取組まれ、海外のアーティストや大学関係者に水性木版画の技術指導を行いました。

この事業は2009年まで継続されましたが、この間海外のアーティスト達から国際会議の開催が要請され、2011年6月に第1回国際木版画会議(京都・淡路)に開催することが決まりました。2010年は長沢アートパーク13年間の活動のまとめと、国際会議の開催準備に充てられました。

2011年3月の東日本大震災、原発事故の影響で開催が危ぶまれましたが、同年6月の第1回国際木版画会議には海外から80人以上の参加があり無事開催されました。

2009年に終了した長沢アートパーク事業は、2011年度から始まった文化庁・文化芸術の海外発信拠点形成事業として、富士河口湖町に開設した国際木版画ラボ(MI-LAB)として再出発しました。

第2回国際木版画会議を2014年に、東京藝術大学をホスト校と実施され、合わせてサテライト事業(会場:アーツ千代田3331)も開催されました。

第3回国際木版画会議は海外での開催となり、2017年10月にハワイ大学とドンキー・ミル・アートセンター(コナ)を会場として実施されました。

1997年から2018年までに約200人以上の海外のアーティスト、大学関係者が日本で発達した水性木版画を学んでいます。この中から海外の大学における水性木版画の教育機会が増えていること、アーティストによるスタジオの開設が数十か所に上り愛好家も増加しています。

これらの関係者は水性木版画を学び・制作し・発表するという目標を、共有しているためネットワークされています。これが国際木版画会議の継続の原動力となっています。

2017年ハワイでの国際会議終了後、ボードメンバーの会議において会議継続のための組織づくりについて議論が行われ、海外ボード中心に国際木版画協会(International Mokuhanga Association=IMA)が発足し、2018年に日本では特定非営利活動法人国際木版画協会日本委員会=IMAJAPAN)が活動を開始しました。

これは1992年から水性木版画の海外普及に取組み、2017年1月に永眠した門田けい子が情熱を傾け、海外のアーティスト達との友情を育んだ賜物であると考えます。

国際木版画会議のプログラム構成(事例:第1回国際木版画会議より)

  1. 論旨の分野
    • アーティストのプレゼンテーション
    • 技術の開発
    • 素材研究
    • 歴史・哲学
    • 社会と木版画
    • 日本における木版画の現状
    • 木版画教育
    • 国際交流
  2. 国際木版画会議公募展・グループ展
    • 国内外で活躍している版画家の木版画作品を公募し展示する
  3. オープンポートフォリオ
    • 会議に参加するアーティスト誰でもが自由なスタイルで自分の作品を展示する。参加者は、予め、テーブルの使用を予約し、当日、そのテーブル上で作品を展示。会場を訪れる作家相互、知人友人、一般ギャラリーと、作品を通し、対話を楽しむ
  4. アーティスト・ブック公募展
  5. 実演・ワークショップ
  6. 展示会
    • 版画の道具・材料メーカー、紙メーカー、版元、ギャラリー、美術関連出版社などの関連各社が展示参加

今回のテーマ “墨-フュージョン 木版画と奈良”

2020年の開催が、第4回目を迎える国際木版画会議(International Mokuhanga Conference、以下IMC)。IMC2020が迫る今回のテーマは「墨—フュージョン」。フュージョン(fusion)とは融合を意味します。木版画における墨の多面性へ迫るべく、伝統と歴史、さらには現在における墨の可能性を探ること、そして日本国内のみならず世界における墨の活用などに迫ります。開催地は奈良。古来より国内随一の品質を誇る墨の産地で、墨の美しさや、色彩としての意味を考えていきたいと思います。

歴史を紐解けば、奈良はシルクロードの東側の終わりに位置する古都であり、中国、韓国、インドに至る周辺地域より職人、僧侶、商人や知識人などが交差する文化都市でした。そうした背景から、この地域では、印刷産業やそれに関わる素材の発展も手伝い、木版画が人々の交流において重要な役割を果たしていたと言われています。

木版画を介して行われる知の交差。奈良という場所が担った役割は様々ですが、IMC2020では、版画家や学術的な研究者はもちろんのこと、工芸に関わる人や職人、木版画教室に通われる方、未来を担う美大生まで一緒になって、木版画と墨について、知恵を寄せ合いましょう。

プリントメディアとして、そして現代における美術を構成する一つの手法として幅広い興味と実践性を持つ版画。IMC2020は、展覧会、ディスカッション、技法のデモンストレーション、論旨発表(研究成果のプレゼンテーション)で構成されています。

「墨−フュージョン」というメインテーマに加え、「歴史について」、「墨と色」、「交差する視点」などのサブテーマについても、IMC2020では広く募集しますので、皆様のお知恵を是非お貸しください。下記はIMC2020が論旨発表でトピックとして募集している項目です。

  1. History 歴史について
  2. Aesthetics 墨の美
  3. COLOR 色と木版画
  4. Intersections 交差する視点
  5. Futures 次の世代へ

それぞれのトピックについて具体的な例を紹介します。ここに記載された内容以外でもトピックに当てはまれば応募可能です。

1、歴史について

  • Origins of the craft and use of woodblock print in Japan(日本の木版画の工芸的性質と出発点)
  • Development in and around Nara of print-related materials such as sumi ink, prototypes for the baren, and early paper-production(奈良周辺地域での墨やバレンの原型や紙の生産の始まりなど、版画印刷に関わる材料や道具の発展)
  • The socio-cultural relevance of historical woodblock printed materials, books etc. in Nara temples/treasure-houses and beyond (社会文化領域での寺院や宝庫などで発見された、木版画印刷、古文書印刷)
  • Historical print production centers, and print dissemination in Nara (歴史において奈良の印刷産業とその普及はどのように行われたか )
  • Text and image in woodblock print(木版画に描かれる文と図柄の題材)
  • Sumi-e (ink painting), sumizuri (early woodblock prints), sumi takazuri (rubbings) and suminagashi (ink marbling), and their relation to sumi in historical/modern/contemporary woodblock printing (墨絵、墨摺、墨流しの歴史と近現代の木版画への関わり)
  • Historical influences of Chinese woodblock printing (mubanhua) on mokuhanga, and modern influences of mokuhanga on printmaking in China(中国の木版画、年画、木刻画などが水性木版画(mokuhanga)に与えた影響と、水性木版画(mokuhanga)が中国の版表現に与えた影響。)
  • Historical and contemporary handprinted mokuhanga books (手摺り木版画製本の歴史と今)

2、Aesthetics 墨の美

  • SUMI BLACK (墨の黒について)
  • Black in mokuhanga: deep blacks, transparent black gradations, gomazuri, sumi urazuri and other printing techniques related to sumi (水性木版画における黒の扱い。純黒色、透明性とグラデーション、ごま摺り、裏刷り、その他墨に関わる技法。)
  • Black and white expression in graphic art (Africa, Americas, Asia, medieval and modern Europe, Russia)(地域別にみる視覚芸術における白黒の表現—アフリカ、アメリカ、アジア、中世から近代のヨーロッパ、ロシアなど)
  • Black and white sosaku hanga, eg in the works of Taninaka Yasunori, Munakata Shiko, Hiratsuka Unichi, Bokunen Naka and successors(谷中安規、棟方志功、平塚運一、名嘉牧睦稔などに代表される創作版画における白黒の表現)
  • Comparison of sumi blacks to oil-based blacks or blacks in other print media(墨と、油性インクまたはその他の性質を持つ黒との比較)
  • Black and monochrome in contemporary print media(現代版画における黒と単一色(モノクローム)
  • Black: color or non-color?(黒は色彩かそれとも色彩ではないのか)

3、COLOR 色と木版画

  • The introduction of color in mokuhanga: multiblock color separation and registration, and other printing techniques related to color(木版画多色刷りにおける、色分解と版分解についてまたはその他の色彩に関する版画技法)
  • Mineral, vegetable and chemical colors and their impact on mokuhanga(鉱物系、植物系、化学系のそれぞれの色料が水性木版画(mokuhanga)に与える影響)
  • Color pigment production in Japan(日本の顔料生産)
  • Color expression in contemporary and historical mokuhanga: ukiyoe, sosaku hanga, shin hanga and hybrid prints(浮世絵や創作版画そして新版画や混合技法を用いた版表現など、木版画の歴史と今の色彩の表現)
  • The relationship between black and color(黒とその他の色彩との関係性)

4、Intersections 交差する視点

    Mokuhanga’s intersections with
  • Japanese concepts, e.g. hansei (反省); fukinsei (不均整); zen (禪), iki (いき); wabi (侘) and sabi (寂)(日本語における諸概念の探求;hansei (反省); fukinsei (不均整); zen (禪), iki (いき); wabi (侘) and sabi (寂))
  • Society, culture, politics and the environment(社会、文化、政治、環境)
  • Craft inside and outside Japan(日本国内外の工芸)
  • Other print media(木版画以外の版表現)
  • Sculpture/video+film/performance/digital art/installation (彫刻、ビデオアート、パフォーマンス、デジタルアート、インスタレーション)
  • Contemporary art(現代美術)

5、Futures 次の世代へ

  • Mokuhanga’s dissemination and reception as an international print medium (世界での水性木版画(mokuhanga)の普及と受容)
  • Mokuhanga’s relation to institutions of dissemination, print workshops, art fairs, publishing houses etc.(水性木版画(mokuhanga)体験工房やアートフェア、出版活動等、組織的普及活動)
  • The attraction of mokuhanga to young artists(若手作家にとっての水性木版画(mokuhanga)の魅力)
  • Teaching mokuhanga in schools, workshops and colleges(学校や工房等で水性木版画(mokuhanga)を教えること)
  • Innovations in tools and materials for mokuhanga(水性木版画(mokuhanga)の道具や材料の新しい扱い)
  • International mokuhanga in relation to its Japanese origins(世界で展開される水性木版画(mokuhanga)と、その出発点である日本の木版画との関わり)
  • The future of mokuhanga in Japan(次世代の日本の水性木版画(mokuhanga))